COI(利益相反)とは?
我が国の大学は、従来、教育・研究を伝統的使命とし、優れた人材の養成と学術研究の発展への貢献を通じ、我が国のみならず人類全体の社会・経済・文化等の充実発展に大きく貢献してきた。今後の社会・経済の更なる高度化・複雑化や国際社会の進展、生涯学習需要の高まり等に伴い、大学は、教育・研究の質の高度化への要請や社会の需要の一層の多様化等に適切に応えるとともに、長期的観点に立った教育・研究の展開によって社会をリードしていくという重要な役割を担っている。
教育・研究活動を通じた長期的観点からの社会貢献に加え、新たな「知」の時代を迎えた今日、大学には自らの研究成果を社会との日常的連携を通じて活用することにより積極的に社会に貢献することが一層強く求められている。特に、新技術・新産業の創出による我が国経済の活性化が重要な課題となっている現在、産学官連携を通じた大学の研究成果の社会還元への期待はこれまでになく高まっている。
産学官連携は教育・研究の成果を社会貢献に活かすための一形態であり、大学が産学官連携を通じて研究成果の社会還元を進めることは、大学がその存在理由を明らかにし、大学に対する国民の理解と支援を得るという観点からも重要である。
しかし、真理の探究を目的とし、人類共有の財産とするための研究成果の公表を原則とする大学と、利益追求を目的とし、営業上の秘密を競争の源泉の一つとする企業とは、もとよりその基本的な性格や役割を異にしている。産学官連携を進める上では、大学や教職員が特定の企業等から正当な利益を得る、又は特定の企業等に対し必要な範囲での責務を負うことは当然に想定され、また、妥当なことである一方で、このような両者の性格の相違から、教職員が企業等との関係で有する利益や責務が大学における責任と衝突する状況も生じうる。このような状況がいわゆる「利益相反(conflict of interest)」といわれるものである。
例えば、特許の実施契約や教員による技術指導は産学官連携の基本的な活動形態の一つであり、実施料収入や兼業報酬といった形で教員個人が金銭的利益を得るのが通常であるが、たとえ、当該教員が正当に大学の職務を遂行していたとしても、特定の企業から金銭的利益を得ているために、社会から疑念を抱かれる可能性も否定できない。「研究テーマが当該企業の利益のために設定される等学術研究上の有意性に欠けるのではないか」「当該企業に有利なデータ収集等がなされる等研究の客観性に欠けるのではないか」「研究結果が正当に社会に公表されずに学術研究の進展を妨げているのではないか」等である。また、その施設設備や研究経費等、活動の基底部分を公的資金によって支えられている教員が、社会的利益を圧迫してまで多額の個人的利益を得ることについて、必ずしも全ての国民の理解を容易に得られる訳ではない。産学官連携の成功により教員が得る利益が多額になればなるほど、課題は一層深刻に感じられるであろう。学生が参加している場合には、教育上の責任について問われる可能性もある(狭義の利益相反の問題)。
また、教員が企業の役員や技術指導等の兼業活動を行っている場合には、このような企業の業務に関する責任を優先したために、休講が多い、あるいは研究室に不在がちで学生への対応が不十分、といった問題が生じる可能性もある。教員が兼業として行う企業役員の職務やコンサルティング活動等は大学の職務外の行為(いわば「副業」)であり、このような兼業活動を理由として大学の職務に支障が生じることは回避しなければならない(責務相反の問題)。
利益相反とは、このように教職員や大学の産学官連携活動に伴い日常的に生ずる状況のことであり、適切な対応を怠れば、場合によっては大学のインテグリティ(integrity)[2]を害し、ひいては大学の教育研究活動を阻害するおそれがある。大学が自らのインテグリティを保持しながら産学官連携を通じて社会貢献という使命をも果たしていくためには、利益相反に関する適切な対応が不可欠である。
出典:平成14年11月「利益相反ワーキング・グループ報告書」 (科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会 利益相反ワーキング・グループ)